富士少年希望少女合唱団 技術指導 菊池 靖 さん
1.発声
発声は、音楽家にとってもずっと課題になるテーマの一つです。
合唱団としての発声は、合唱団の声を整えることであり、ソリストとしての声を追求するものではありません。
しかし、個人の能力が上がれば、合唱団の声は確実に良くなりますから、可能な限り個人に焦点を当てて声を整えていく作業を行いましょう。
合唱練習を始める前に、以下の点に注意して行っていきましょう。
1. 姿勢(前傾姿勢)
足を肩幅ほどに開き、片足を前に出す。
体の重心が安定し、表現の幅が広がります。
腰を体の中心にし上半身を支えるように、しっかりと立つ。
つま先に体重を少しかける。
ひざが固くならないように気をつける。

2. 呼吸(腹式呼吸)
お腹の後方あたりに手をおき、手を押し返すように息を吸う。
※前屈で息を吸うと、よりわかりやすい。
力を入れすぎて、固くしすぎないように気をつける。

3. 上半身
お腰が体の中心になるように、しっかりと立つ。
足がふらつかないように気をつける。
肩や首筋、胸、あごに力を入れないようにする。
※一生懸命になればなるほど、力が入り、首に青筋がたってしまうので注意しましょう。

4. 口の開け方
上下の奥歯の間に指が1本入るくらい開ける。
舌には力を入れずに自然な状態を保つ。
ベタッと下につけたりしてかたくしない。
上の歯が見える位にあけると、明るい声になる。
顔面の筋肉は柔らかくしておく。(顔を両手でマッサージ)

5. 響き
以下のイメージを持って発声するようにしましょう。
声を上あごに乗せて、真上に響かせる。
声の方向は、正面斜め上の方向に飛ばす。
響きは30m上に、のどがあるように声を出す。
目の奥と鼻の奥を開けて、空間を作るようにして声を出す。
あごが前に出ないように、少しあごを引く。

6. イメージ
空間と身体がいっしょになったように。
※右手を顔の斜め前に出し、頭の前にむかって空気の玉を入れるようなイメージで 動作をし、息の入ってくる感覚をつかむ。

声のエネルギーと空気が循環するように。
※息が、頭の前から入って上あごをとおって、おなかとつま先を経由して、再びお腹から上あごを通って、響きをともなって空間に帰るというように、空間と自分の体をエネルギーと空気が循環するというようなイメージ。
※最初に入ってくる息を、のどの奥に入れると、こもった響きになるため気をつける。
2.響きを確認する
合唱では、きれいな「頭声」の発声を使います。
いわゆる話し言葉などで使われる地声と対照的なきれいな声を選択します。
この「きれいな声」は人それぞれ判断基準も異なります。
一般的には「ハミング」で上あごに響きを保つようにします。

<ハミング>
・口の奥を大きくあけて、口の中に空間をつくるイメージで。
・口元は軽く閉じます。
・体は力を入れすぎないように、リラックスで。
※NHKの合唱コンクールを聞いてみると日本の合唱のトレンドが把握できるかもしれません。
世界を代表するウィーン少年合唱団は、徹底的に裏声でものすごく透き通った声を選択しています。この澄んだ声は未来部の時代、特に小学生から中学生にかけての時代にしか出ない特有の響きがあります。このサウンドを目指す場合は、ハミングや裏声での練習を徹底的に行う必要があるでしょう。
やはり、合唱団がどんな音楽をしたいかによって発声も変わってくるので、よく吟味が必要です。
3.母音を整える
日本語の「あ、い、う、え、お」の5つの母音を、合唱団で統一できると聞き手としては非常に安心して聞いていられます。基本的なことを皆で確認していきましょう
「あ」:奥歯の上下の間に指が1本入るくらい、上下に大きく開けます。
「い」:基本は立て開きにして、唇をとんがらせてラッパのような口を作ります。
「う」:「い」と同様、唇を前に突き出して、ラッパのようにつくります。ただ「い」よりも舌が下の方に広がっていると思います。
「え」:「あ」と同様に、口を大きく開けて舌の位置を動かすと「え」に近い言葉になるかと思います。
「お」:「あ」よりももっと縦に下顎を落とす状態になります。
実際の小学校の合唱コンクールを聞き、研究するとイメージが広がると思います。
4.音を付ける
母音を整える作業は音をつけなくても可能です。
しかし、合唱は歌を歌うので、言葉に必ず音がついています。
そのため、発声練習の段階から音をつけて練習することをお勧めします。
<練習>
(1)単音で数拍伸ばして、音を確認します。
一つずつ音を変えて、確認を終えたら、今度は音を動かします。
(2)「ドレミレドレミレド」と3度の動きで声を整えます。
始めはバラバラでも何度かやっていくうちに慣れてきて、声が揃ってきます。長い目でみてあげてくださいね。
(3)「ドレミファミレド」と4つの音程にして音域を広げていきます。
これだけで歌い手はかなり感覚が変わるので、半音の「ミ」と「ファ」が入りますので、音程感覚も揃えられるようになります。
(4)(余力があれば)
「ドレミファソファミレド」と5度音程や音階のオクターブなどを取り入れると、子どもたちの興味が引き出せるかもしれません。
<二部合唱・三部合唱を目指している団へ>
発声練習から二部にして練習することも出来ます。
※ハモりの練習になります。
例)高いパート:「ミファソラソファミ」
低いパート:「ドレミファミレド」